samedi 21 mai 2011

ヴァレリー・ペクレスさんの挨拶 - 最後は哲学と文化の問題か



先週、パスツール研究所でフランソワ・ジャコブFrançois Jacob, né le 17 juin 1920 à Nancy)とジャック・モノー (1910-1976)によるオペロン・モデルの発表から50年を記念した下記のシンポジウムがあった。

EMBO Workshop on
the Operon Model and Its Impact on Modern Molecular Biology
(May 17-20, 2011; Institut Pasteur)

The review article entitled “Genetic Regulatory Mechanisms in the Synthesis of Proteins“ or in brief the “Operon model” by François Jacob and Jacques Monod was published in the Journal of Molecular Biology on June 1961 (J.Mol.Biol. 3, 318-356, 1961).


2日目の夕方。公務の都合になるのだろうか、予期せぬ時間に高等教育・研究大臣のヴァレリー・ペクレスさんの挨拶が入った。挨拶の前にフランソワ・ジャコブさんがゆっくりとした足取りで会場に入ってきた。フランスの大臣の話を聞くのは今回で三度目になる。最初は、生命倫理の会での保健省大臣のロズリン・バシュロー・ナルカンさん。それから世界哲学デーで聞いた国民教育相のリュック・シャテルさん。いずれのお話も感心して聞いていたが、今回も例外ではなかった。

生命倫理とフランス語で暮れる (2010-03-29)
「世界哲学デー」 を発見 (2010-11-18)

ペクレスさんはこちらに来た当時、アメリカ化とも言えるような大学改革を推し進めていて、テレビで見かけたことがある。弁が立ち、押し出しもよく、大学にとっても手強い相手だろうという印象を持った記憶があるが、それ以来だ。4年前の印象では小柄な方かと思っていたが、長身で颯爽としているのに驚く。本当に押し出しがよい。会場の空気が引き締まる。

フランス語で話し始めた冒頭からフランスの医学・生物学の哲学者ジョルジュ・カンギレム(1904-1995)の引用が入り、暫くの間彼の生物学の哲学について語っていた。そして、オペロン・モデルの発表は単に分子生物学の幕を開けただけではなく、われわれの生命に対する考え方を変えた哲学的な革命であり、人類の思想史に深い刻印を残すものでもあったと続けた。さらにジャコブさんに向かい、あなたは自らの発見について深く明晰な省察をし、そこから哲学的、倫理的、政治的な意味を見出し指摘した真の哲学者であると称賛の言葉を贈っていた。政治家がこのような称賛の仕方をする国であることに驚いていた。

途中、フランスの大臣はフランス語で通すことになっているのですが、とほんの少しだけ冗談めかして語った後、英語でも続けていた。これからの課題として、遺伝、遺伝子を超えた機構(エピジェネティックス)、脳すなわち思考、幹細胞、老化、統合生物学などを挙げ、同時に明晰な精神による幅広い思索が人類のために求められることを指摘していた。科学のリズムが変わってきている中、フランスの活力や世界における指導的立場を維持するために研究面での充実を図る決断を数ヶ月前にしたことなどを話してお話は終わった。

今回も日本の政治家からはなかなか出てこないようなお話を聞くことができた。これをどう見ればよいのだろうか。ペクレスさんも忙しい政治家なので、こなしている側面もあるだろう。そうだとしてもそれを支える人の教養の違いになるだけである。思索を刺激することのない当たり障りのない言葉が並べられるだけでは、それでなくても閉塞感が溢れていると言われる国内の空気は淀む一方だろう。正確な言葉、核心を刺激する言葉は世界を拓く力を持っているはずである。言葉ではないと言ってやり過ごす道もある。しかし、結局のところ、まず言葉を磨くところから始めなければ未来は開けないのではないだろうか。幅広く論理的に考え、正確な言葉を使うことは哲学の領域で重要になることである。この点は、昨年の 「世界哲学デー」 においてリュック・シャテル大臣がこれからのリセ教育において強調すべきだとして話していた。科学においても、われわれの日常においても哲学がその根を支えているのでなければ、われわれの文化は底の浅いものにしかならないのではないか。そんな想いとともにペクレスさんの挨拶を聞いていた。





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