vendredi 19 novembre 2010

何もしていないように見えるが、デフォルト・モード・ネットワーク DMN: Default Mode Network



今年2月のScientific Americanの記事を振り返ってみたい。米国セントルイスにあるワシントン大学の Marcus Raichle 博士による "The Brain's Dark Energy"(脳のダークエネルギー)というエッセイになる。これは宇宙に存在するエネルギーのかなりの部分がよくわかっておらず、ダークエネルギーと呼ばれていることに因んでの命名らしい。

結論を大雑把に言ってしまうと、次のようになるだろうか。われわれの脳は意識して何かをしていない時にも活動していて、意識している時の20倍ものエネルギーを消費している。このベースラインの活動を示す領域はデフォルト・モード・ネットワーク (default mode network: DMN) と名付けられ、記憶に関与したり、将来の出来事への準備に関わっている。さらに、アルツハイマー病、うつ病、自閉症、また統合失調症において、DMN と重なる領域に異常が見られることから、DMNの異常と病気が結びつく可能性も示唆されている。

1929年にドイツの精神科医ハンス・ベルガー (Hans Berger; May 21, 1873 – June 1, 1941) が脳波を初めて報告した時に、われわれの脳は目覚めて何かをしている時だけではなく、常に相当の活動していることを指摘しているが、長い間無視されてきた。しかし、1970年代後半にポジトロン断層法 (PET: positron emission tomography) が、また1992年には fMRI (functional magnetic resonance imaging) が導入され、脳の活動が代謝活動や血流量の変化として観察できるようになってきた。このような検査では、調べたい現象がよりはっきりわかるようにコント ロールとなる条件での活動をノイズとして差し引くことが行われる。そのためベースラインの活動に注意が行かなかったのはよく理解できる。

しかし、Marcus Raichle 博士のグループはコントロールの条件で活動している脳の部位を興味を持って研究していた。よく調べると、コントロールの条件で脳の全エネルギーの60-80%が消費されているのに対し、テスト時のエネルギー消費の増加は5%以下にしか過ぎないという。さらに、視覚を例に取ると、網膜で受けた情報量を100万とすると、視神経から運ばれる時には600に激減し、視覚野と呼ばれる脳の担当領域に到達した時には最初の100万分の1 になっていることが明らかになった。この結果から、脳が外界の情報を受け取るためには視覚に関係する以外の領域が働いているのではないかと彼らは考えた。

その後の研究でテスト時に活動が上がるだけではなく、減少する場所もあることも明らかになり論文を投稿したが、掲載を拒絶されたエピソードも紹介されている。現在のところ、下の図で紫の部位がDMNとして認められている。




これらの領域が意識の根本に迫るヒントを与えてくれるのではないかという期待がある。また、DMNについての国際共同研究が進行中で、2008年の報告によるとコンピュータでのテストをする前にDMNを観察していると、テスト30秒前にはその人が間違いを犯すかどうかがわかるという。これから起こる状況に対応するためにはある準備がされなければならないが、その準備状況がDMNに現れているというのだろうか。さらに、アルツハイマー病で異常を示す領域がDMNとよく一致することから、DMNの病気として捉えられる日が来るかもしれない。まだ新しい分野のようで、すべての現象を説明できる理論の確立を求めて終わっている。これからの進展に注目 したい。

ところで、日頃から行っている瞑想だが、私の場合には起きているとも眠っているとも言えない怠惰な状態に入りたい時にそう称しているに過ぎない。これは一体DMNの活動によい効果を及ぼしているのだろうか。その時が来ないと結論は出ないのだろうが興味が湧いている。

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