vendredi 17 août 2012

東京での二つの講演


9月の一時帰国では、9月11日、12日の 「科学から人間を考える」 試みの他、2つの講演が予定されている


ひとつは、東京で開かれる第36回日本神経心理学会

9月14日(金)夕方からの教育講演

演題は、「神経心理学を哲学する」 
"Philosophical problems in neuropsychology"

要 旨:
神経心理学の臨床を症状の記載に始まる器質的変化の同定とその修復を目指す学問であると定義すると、いくつかの哲学的問題が現れる。第一 に、症状の記載に関わる言語の問題。第二に、ある精神・心理症状から脳内の原因がわかるのかという相関性(correlation)と因果性 (causality)の問題。第三に、その精神活動は本当に特定された局所だけに因っているのか、他の領域の関与はないのかという部分と全体の問題。第四に、脳内の物質の物理・化学的変化から非物質である精神活動がどのようにして現れるのか、歴史的にはデカルトが明確に分けた空間を占める物質としての身体(延長実体)とそれとは重ならない非物質としての精神(思惟実体)がどのように影響し合っているのかを問う所謂「心身(心脳)問題」。第五に、対象者の症状のどこからを異常と見做すのかという正常と病理の間にある本質的な相違、および病気の治癒をどのように捉えるのかという問題。そして第六には、病気を契機として現れるそれまでの日常から乖離した新しい状況に人間がどのように関わっていくのかという人間と環境の問題などが考えられる。これらの古くて新しい問題は神経心理学が内包するだけではなく、医学全般にも当て嵌まる大きな広がりを持つもので、そこには人類の膨大な思索の跡が残されている。この発表では、それぞれの問題点を概観した後、心身(心脳)問題、正常と病理の問題、さらに人間と環境の関係をどう捉えるのかを中心に考察を進め、現場に身を置く皆様のご批判を仰ぎたい。

もうひとつは、9月13日(木)夕方からの国立感染症研究所における学友会セミナー

演題は、「なぜ科学に哲学が必要になるのか」
“Why is philosophy needed to science?”

要 旨:
古代ギリシャから17世紀に至るまで科学と哲学は不可分の関係にありました。その後、新たな方法を得た科学が哲学から自立する過程で、思弁だけを方法論とする哲学を科学から排除することになります。明治期の日本が西洋の科学を導入する際、国を興すために必要となる技術の導入には力を入れましたが、科学を生み出し支えてきた文化や精神的側面は見過ごされました。その傾向は第二次大戦から現在に至るまで続いています。昨年の3.11以降、日本の科学の惨状が白日の下に晒されましたが、その背景にもこの問題があるように見えます。この発表では、科学と哲学との関係を振り返りながら、科学をより十全なものにするために不可欠になる哲学的視点の重要性について考えます


この領域に入ってから、できるだけ多くの方に哲学的視点の重要性を知っていただきたいと思っている

ペーター・スローターダイクさんを俟つまでもなく、哲学にはその中へ他者を誘う使命があるからだ

偶の帰国は、そのための貴重な機会になっている




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