mercredi 24 novembre 2010

Yair Neuman著 "Reviving the Living" を読む (2)

 

プロローグ

1.ここで扱われる知は、生物学や意味論の他に、免疫学、哲学、物理学、数学などの幅広い領域に及ぶ。この本が想定している読者は、専門家というよりは生物系に対する新しいアプローチを受容しようとする教養ある読者である。

2.この本のスタイルは、インフォーマルで省察や瞑想を取り入れ、時に挑発的でもある。所謂、学問的な論文とは異なり、思索を刺激し、楽しみながら読めるようにしている。

3.人文科学の伝統は、過去の学者の考えを研究することに明け暮れるもので、一種の死体愛(necrophilia)である。もちろん、過去の研究は重要な営 みではあるが、退屈なもので、科学が哲学なしに発展した理由にもなっている。科学が前を向いているのに対し、哲学は後ろを向いている。一つの原因は「対 話」だが、解は死体からは得られない。スラヴォイ・ジジェク(Slavoj Žižek,1949-) が言ったように、偉大な哲学者は対話ではなく、この世界について独自の見方を提出することに興味を示す。ソクラテスはアゴラに出て、生きた人間から現在の 問題についての解を得ようとした。哲学の研究を過去の分析にするのではなく、今ここにある問題に対峙して、前に向けた視点を提示することに充てるべきだと 考えている。

4. 学際性は評判が悪いことがある。それは異なる分野の成果を摘み取りしてごった煮にする例があるからだ。残念ながら、膨大な知を持った人間だが、昔よりも脳 機能が進化したり、道徳的行動が増えることはないように見える。われわれの脳が増大する情報に対応できなくなっているのである。そのため、どんどん小さな 領域に入り込み、全体としてのシステムという視点が失われることになる。

例えば、全身麻酔時に無意識に感じる痛みは免疫系を介するという仮説を出したことがあるが、麻酔医は免疫学の論文は読まないし、免疫学者も麻酔学には興味を 持っていない。そのため興味深い仮説も注目を集めることがない。他の例として、術後に見られる腸癒着がある。この現象の解決にも多様な視点が必要になる。 ポーランドの映画監督クシシュトフ・キェシロフスキ(Krzysztof Kieślowski, 1941-1996)氏は、有能な監督になるためには心理分析、神学、哲学などの他、人間の経験を理解するために必要となる分野について学ばなければなら ないと言っている。これらについて無知なわれわれに残されたものは、直観だけなのだろうか。

ベルグソンは『思想と動くもの』の中で、直観についてこう言っている。
「絶 対的なものは直観によってしか与えられないが、それ以外のものは分析による。ここで直観というのは、対象の中にある特異で、それ故表現し得ないものと一致 するためにその中に入り込む共感のことである。反対に、分析とは対象をすでに分かっている要素へと還元する操作のことである」
分析的手法や還元主義を用いる科学は、直観とは対極にあることがわかる。しかし、科学においても直観の果たす役割は否定できない。それではどのようにして全 体の感触を得ることができるのか。一つは鳥の目を以って全体を見渡すために、ノマドのように異なる領域を歩き回ることの重要性を認識することである。これ はわたしの発見ではなく、フラクタルの父といわれるブノワ・マンデルブロ(Benoît Mandelbrot, 1924-2010)博士が言っていることでもある。
「確立された学問の知的繁栄には、好き好んでノマドになった稀な学者が必須になる」
その代表例として、グレゴリー・ベートソン(Gregory Bateson, 1904-1980)を挙げることができるだろう。

5.人間は習慣の動物である。習慣は新しい出来事を古い眼鏡で見る危険性を内包している。この本では情報処理の視点から生物学に迫る時に無視しがちな意味についての論を展開している。さらに、生物をチューリングマシンとして見て、相互作用を無視する考え方を批判している。つまり、ノーム・チョムスキー(Noam Chomsky, 1928-)、アラン・チューリング(Alan Turing, 1912-1954)、クロード・シャノン(Claude Shannon, 1916-2001)、フェルディナン・ド・ソシュール(Ferdinand de Saussure, 1857-1913)等を批判し、ミハイル・バフチン(Mikhail Bakhtin, 1895-1975)、ベートソン、ヴァレンティン・ヴォロシノフ(Valentin Voloshinov, 1895–1936)、ジャン・ピアジェ(Jean Piaget, 1896-1980)、カール・ポランニー(Karl Polanyi, 1886-1964)、チャールズ・サンダース・パース(Charles Sanders Peirce, 1839-1914)などの伝統を引き継ぐことになる。これらの学者は生気論の信奉者ではなく、ここでも新生気論を排除する。生物の階層の間に生まれる意 味の形成を重視する。そのため、polysemy、dual coding、boundary conditions、 transgradience、mesoscopic などの新語を導入する。どうか、既存の眼鏡では見ないようにお願いしたい。

6. 本書の構成。第1部では還元主義とその限界について、遺伝学と免疫学を例に論じる。第2部は意味の形成について、言語研究の3分野(syntax、 semantics、pragmatics)を関連付けて論じる。第3部では意味の形成を根源的な視点から論じる。第4部と結論部では高度に抽象的で詩的 な視点から意味の形成について省察する。

7.Cat-logues の部分は、想像の猫バンバとの会話で、この本のテーマをユーモラスで批判的に省察するためのものである。 




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