今回と1918年のパンデミックの比較について、医学史、公衆衛生の専門家、Patrick Zylberman とのインタビューが昨日のル・モンドに出ていた。
今回の感染をどのように見ていますか?
最も興味深いのはメキシコでの死亡例が、若年者であることです。そのため小児や老人ではなく16歳から40歳までが標的となった1918年のパンデミックを思い出します。
二つの感染を比較するのは時代錯誤ではないでしょうか?
その通りです。2003年のSARS の時には、すべての医者、疫学者、公衆衛生の専門家はスペイン風邪の再来をホロコーストのように語りました。それは手をこまねいている政治家や市民に準備させるために強調する必要があったからです。
しかし、1918年と今回の状況は全く違います。ウイルスの病原性だけがパンデミックの指標ではありません。1918年とは違い、われわれはウイルスについての知識を持っています。抗ウイルス剤やワクチン製造が可能ですし、重症例を治療する抗生物質もあります。完全ではないかもしれませんが、疫学的監視システムが1995年以降出来上がっています。
われわれは1918年の経験から何を学びましたか?
1997年の鳥インフルエンザの際の香港当局の素晴らしい対応を見てください。数人が死亡した後に鳥の屠殺を決定しました。SARS の時は最初まごつきましたが、その後はアジアとカナダ政府が状況のコントロールに成功しました。
経験から学んだことは確かです。それが充分であるかどうかですが、2006年にロンドンの大学で行われた研究によると、フランスやイギリスなどの国は比較的準備ができているが、ヨーロッパ全般ではそうではないようです。
1918年当時の人はパンデミックに対する切迫感を持っていたのですか?
当局は完全に不意を突かれたのです。忘れてならないのは、まだ第一次大戦が続いていたことです。アメリカなどの戦地から離れた国では、まだ対処すべき相手を知りませんでした。ヨーロッパで4%、サモアでは20%にも達した死亡率をもたらしたものは、当局の対応のまずさになります。
1976年の例のように、当局の過剰な反応が感染そのものよりも深刻な被害を生むということになりませんか?
1976年のアメリカでの感染は、「全く起こらなかったこと」 になります。ニュー・ジャージーの軍基地で数例が見つかり、1918年の記憶が蘇りパニックになります。1920年以来アメリカにはなかったH1N1株による感染でした。フォード大統領は全国民にワクチンを指示することになりますが、ワクチンの事故とウィルスが消えたことにより2ヶ月後には中止になりました。ワクチンの指示は科学的と言うよりは感情的なものだったのです。
現在の衛生当局の対応は感情的でしょうか?
現在のWHO の対応が過剰だと批判する人がいますが、それは正しくありません。なぜなら、すべての政府は、WHO の指針により計画を立てているからです。2003年以来、感染やバイオテロリズムへの対応に関するすべての話し合いで大きな問題になるのが、WHO がその司令官であるべきか、ということです。ヨーロッパは好意的です。アメリカはやや好意的ですが、アジアはそれほどではありません。
前パンデミック状態がこれから感染が広がり始める貧しい国にどのようなインパクトを与えるでしょうか?
それは大きな不安です。秋に第二波が北半球を襲う場合、衛生状況がよくなく治療法もない国は富める国に比べ多くの被害を受けるでしょう。感染の伝搬を遅らせる手段として、10-20%の抗ウイルス剤を共有することが考えられます。世論が共有することに反対する可能性もあり、政治的には微妙でしょう。
危機管理のために公的な関心が生まれることは、われわれの社会の進化の指標でしょうか?
もちろんです。技術的なところから公的なところへの問題の移行は、素晴らしい進化と言えます。これも現在の社会が1918年とは全く違うという理由になります。転機は新興性の病気(特にエイズ)に対する懸念が生まれた1980年代や20世紀末の食料安全の危機でした。
メディアはどのような役割を果たしていますか?
メディアの役割は決定的で、政府もそのことをよく知っています。危機にあって、情報は抗ウイルス剤と同様に感染に対して抑制効果を持つ重要なものですが、管理が難しいものでもあります。予防的な報道はパニックを限定的にしますが、人々を受け身の状態から脱するように促すものでなければなりません。これは準備が最も遅れている領域のひとつになります。
それはなぜでしょうか?
政府が情報のコントロールを手放すのを嫌がることとメディアがこれらの問題をほとんど理論化していないからです。
"Grippe : 2009 n'est pas 1918" (Le Monde, 8 mai 2009)
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